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  10. 外郎売り
    せっしゃ おやかたともうすは おたちあいのうちに ごぞんじのおかたも ござりましょうが おえどをたって にじゅうりかみがた
    拙者 親方と申すは お立合のうちに 御存じのお方も ござりましゃうが お江戸を発って 二十里上方
    そうしゅうおだわら いっしきまちを おすぎなされて あおものちょうを のぼりへおいでなさるれば
    相州小田原 一色町を お過ぎなされて 青物町を 登りへおいでなさるれば
    らんかんばし とらやとうえもん ただいまは ていはついたして えんさい と なのりまする
    欄干橋 虎屋藤右衛門 只今は 剃髪致して 円斎 と 名乗りまする
    がんちょうより おおつごもりまで おてにいれまする このくすりは むかし ちんのくにのとうじん ういろうというひと わがちょうへきたり
    元朝より 大晦日まで お手に入れまする 此の薬は 昔 珍の国の唐人 外郎といふ人 わが朝へ来たり
    みかどへさんだいのおりから このくすりを ふかくこめおき もちゆるときは いちりゅうずつ かんむりのすきまより とりいだす
    帝へ参内の折から この薬を 深くこめ置き 用ゆる時は 一粒ずつ 冠のすき間より 取り出す
    よって そのなを みかどより とうちんこう と たまわる
    依って その名を 帝より 透頂香 と 賜る
    すなわち もんじには いただき すく におい と かいて とうちんこう と もうす
    即ち 文字には 頂き 透く 香い と 書いて とうちんかう と 申す
    ただいまは このくすり ことのほか せじょうにひろまり ほうぼうににせかんばんをいだし
    只今は この薬 殊の外 世上に弘まり 方々に似看板を出し
    いや おだわらの はいだわらの さんだわらの すみだわらのと いろいろに もうせども ひらがなをもって ういろう としるせしは おやかたえんさいばかり
    イヤ 小田原の 灰俵の さん俵の 炭俵 のと 色々に 申せども 平仮名をもって ういらう と記せしは 親方円斎ばかり
    もしや おたちあいのうちに あたみかとうのさわへ とうじにおいでなさるか または いせさんぐうのおりからは かならず かどちがい なされまするな
    もしやお立合の中に 熱海か塔ノ沢へ 湯治においでなさるか 又は伊勢参宮の折からは 必ず門違い なされまするな
    おのぼりならば みぎのかた おくだりなれば ひだりがわ はっぽうがやつむね おもてがみつむね ぎょくどうづくり
    お登りならば 右のかた お下りなれば 左側 八方が八つ棟 表が三つ棟 玉堂造り
    はふには きくにきりのとうの ごもんを ごしゃめんあって けいずただしき くすりでござる
    破風には 菊に桐の薹の 御紋を 御赦免あって 系図正しき薬でござる
    いや さいぜんより かめいのじまんばかり もうしても ごぞんじないかたには しょうしんの こしょうのまるのみ しらかわよふね
    イヤ 最前より 家名の自慢ばかり 申しても 御存じない方には 正真の胡椒の丸呑 白川夜船
    さらば いちりゅうたべかけて そのきみあいを おめにかけましょう
    さらば 一粒食べかけて その気味合を お目にかけましゃう
    まず このくすりを かようにひとつぶ したのうえに のせまして ふくないへ おさめますると
    まず この薬を かやうに一粒 舌の上に 乗せまして 腹内へ 納めますると
    いや どうもいえぬは い しん はい かんが すこやかになって くんぷう のんどよりきたり こうちゅう びりょうをしょうずるがごとし
    イヤ だうも云へぬは 胃 心 肺 肝が すこやかになって 薫風 咽より来たり 口中 微涼を生ずるが如し
    ぎょちょう きのこ めんるいのくいあわせ そのほか まんびょう そっこうあること かみのごとし
    魚鳥 茸 麺類の食合せ 其の外 万病 速効ある事 神の如し
    さて このくすり だいいちの きみょうには したのまわることが ぜにごまが はだしでにげる
    さて この薬 第一の 奇妙には 舌のまはることが 銭独楽が はだしで逃げる
    ひょっとしたが まわりだすと やもたても たまらぬじゃ
    ひょっと舌が まはり出すと 矢も楯も たまらぬじゃ
    そりゃそりゃ そらそりゃ まわってきたは まわってくるは
    そりゃそりゃ そらそりゃ まはってきたわ まはってくるわ
    あわやのんど さたらなしたに かげさしおん はまのふたつは くちびるのけいちょう
    アワヤ咽 サタラナ舌に カ牙サ歯音 ハマの二つは 唇の軽重
    かいごうさわやかに あかさたなはまやらわ おこそとのほもよろを
    開口さわやかに あかさたなはまやらわ おこそとのほもよろを
    ひとつへぎへぎに へぎほし はじかみ ぼんまめ ぼんごめ ぼんごぼう
    一つへぎへぎに へぎほしはじかみ 盆豆 盆米 盆ごぼう
    つみたで つみまめ つみさんしょう
    摘蓼 摘豆 摘山椒
    しょしゃざんの しゃそうじょう
    書写山の 写僧正
    こごめのなまがみ こごめのなまがみ こんこごめの こなまがみ
    粉米の生噛み 粉米の生噛み こん粉米のこ生噛み
    しゅす ひじゅす しゅす しゅちん
    繻子 緋繻子 繻子 繻珍
    おやもかへい こもかへい おやかへいこかへい こかへいおやかへい
    親も嘉兵衛 子も嘉兵衛 親嘉兵衛子嘉兵衛 子嘉兵衛親嘉兵衛
    ふるくりのきの ふるきりくち
    ふる栗の木の 古切口
    あまがっぱか ばんがっぱか
    雨合羽か 番合羽か
    きさまのきゃはんも かわぎゃはん われらがきゃはんも かわぎゃはん
    貴様の脚絆も 皮脚絆 我らが脚絆も 皮脚絆
    しっかわばかまの しっぽころびを みはりはりながに ちょとぬうて ぬうて ちょと ぶんだせ
    しっかは袴の しっぽころびを 三針針中に ちょっと縫うて 縫うて ちょっと ぶんだせ
    かわらなでしこ のせきちく
    河原撫子 野石竹
    のらにょらい のらにょらい みのらにょらいに むのらにょらい
    のら如来 のら如来 三のら如来に 六のら如来
    ちょとさきの おこぼとけに おけつまづきゃるな
    一寸先の お小仏に おけつまずきやるな
    ほそみぞに どじょう にょろり
    細溝に 泥鰌 にょろり
    きょうの なまだら なら なままながつを ちょとしごかんめ
    京の なま鱈 奈良 なままな鰹 ちょと四、五貫目
    おちゃたちょ ちゃたちょ ちゃっとたちょ ちゃたちょ あおだけ ちゃせんで おちゃちゃっと たちゃ
    お茶立ちょ 茶立ちょ ちゃっと立ちょ 茶立ちよ 青竹 茶筅で お茶ちゃっと 立ちゃ
    くるわ くるわ なにがくる こうやのやまの おこけらこぞう
    来るわ 来るわ 何が来る 高野の山の おこけら小僧
    たぬきひゃっぴき はしひゃくぜん てんもくひゃっぱい ぼうはっぴゃっぽん
    狸百匹 箸百膳 天目百杯 棒八百本
    ぶぐ ばぐ ぶぐ ばぐ みぶぐばく あわせて ぶぐ ばぐ むぶぐばぐ
    武具 馬具 武具 馬具 三武具馬具 合わせて 武具 馬具 六武具馬具
    きく くり きく くり みきくくり あわせて きく くり むきくくり
    菊 栗 菊 栗 三菊栗 合わせて 菊 栗 六菊栗
    むぎ ごみ むぎ ごみ みむぎごみ あわせて むぎ ごみ むむぎごみ
    麦 ごみ 麦 ごみ 三麦ごみ 合わせて 麦 ごみ 六麦ごみ
    あの なげしの ながなぎなたは たが ながなぎなたぞ
    あの 長押しの 長薙刀は 誰が長薙刀ぞ
    むこうの ごまがらは えのごまがらか まごまがらか あれこそほんの まごまがら がらぴいがらぴい かざぐるま
    向うの 胡麻殻は 荏の胡麻殻か 真胡麻殻か あれこそほんの 真胡麻殻 がらぴいがらぴい 風車
    おきゃがれこぼし おきゃがれこぼし ゆんべもこぼして またこぼした
    おきゃがれ小法子 おきゃがれ小法子 ゆんべもこぼして 又こぼした
    たあぷぽぽ たあぷぽぽ ちりから ちりから つったっぽ たっぽたっぽ いっちょだこ おちたらにてくお
    たあぷぽぽ たあぷぽぽ ちりから ちりから つったっぽ たっぽたっぽ 一丁だこ 落ちたら煮て食お
    にてもやいても くわれぬものは ごとく てっきゅう かなぐまどうじに いしぐま いしもち とらぐま とらきす
    煮ても焼いても 食われぬものは 五徳 鉄灸 かな熊童子に 石熊 石持 虎熊 虎きす
    なかにも とうじの らしょうもんには いばらきどうじが うでぐりごんごう つかんでおんしゃる
    中にも 東寺の 羅生門には 茨木童子が うで栗五合 つかんでおむしゃる
    かの らいこうの ひざもとさらず
    かの 頼光の 膝元去らず
    ふな きんかん しいたけ さだめて ごだんな そばきり そうめん うどんか ぐどんな こしんぼち
    鮒 きんかん 椎茸 定めて後段な そば切り さうめん うどんか 愚鈍な 小新発知
    こだなの こしたの こおけに こみそが こあるぞ こじゃくし こもって こすくって こよこせ
    小棚の こ下の 小桶に こ味噌が こ有るぞ 小杓子 こ持って こすくって こよこせ
    おっとがてんだ こころえたんぼの かわさき かながわ ほどがや とつかは はしっていけば やいとをすりむく さんりばかりか
    おっと合点だ 心得たんぼの 川崎 神奈川 程ヶ谷 戸塚は 走って行けば やいとを摺りむく 三里ばかりか
    ふじさわ ひらつか おおいそがしや こいそのしゅくを ななつおきして そうてんそうそう そうしゅうおだわら とうちんこう
    藤沢 平塚 大磯がしや 小磯の宿を 七つ起きして 早天早々 相州小田原 とうちんかう
    かくれござらぬ きせんくんじゅの はなのおえどの はなういろう
    隠れござらぬ 貴賤群衆の 花のお江戸の 花ういらう
    あれ あのはなを みて おこころを おやわらぎや という
    あれ あの花を 見て お心を おやわらぎや という
    うぶこ はうこに いたるまで このういろうの ごひょうばん ごぞんじないとは もうされ まいまいつぶり つのだせ ぼうだせ ぼうぼうまゆに
    産子 這子に 至るまで この外郎の 御評判 御存じないとは 申され まいまいつぶり 角出せ 棒出せ ばうばう眉に
    うす きね すりばち ばちばち ぐわらぐわらぐわらと はめをはずして こんにちおいでの いずれもさまに
    臼 杵 すりばち ばちばち ぐわらぐわらぐわらと 羽目をはずして 今日おいでの いずれも様に
    あげねばならぬ うらねばならぬと いきせいひっぱり とうほうせかいの くすりのもとじめ やくしにょらいも しょうらんあれと
    上げねばならぬ 売らねばならぬと 息せい引っぱり 東方世界の 薬の元〆 薬師如来も 照覧あれと
    ほほぅ うやまって ういろうは いらっしゃりませぬか
    ホホ 敬って 外郎は いらっしゃりませぬか